雑誌『ジュバンス』記事 その2

◆仮性包茎への誤解と広告の大ウソ(1994/5月号)

方針イメージ

 

 前回は、私の忠告にもかかわらず″包茎手術″をして、痛ましい傷跡をつくってしまった青年の話を紹介した。
彼もまた、若い男性向け雑誌にハンランする誇大広告におどらされてしまったのである。
 そこで私は、どうしたら誇大広告に惑わされすにすむか、ぜひみなさんに伝えたいのだが、その前に順序として「仮性包茎」について説明しておこう。



 包茎には三種類あり、そのうち「真性包茎」と「かんとん型包茎」は明らかに機能障害なので手術が必要だということは前回に述べた(健康保険適用)。

 問題は「仮性包茎」である。これはただ単純に、包皮が余っているというだけの状態をさす。具体的にはには、ふだん余っている包皮に亀喪が包まれているが、勃起すると露出する、あるいは手でむいてやると露出するというケースだ。

 その程度はさまざまだが、いずれにしろ、亀頭を露出する必要のあるときは完全に露出できるので、セックスのときに痛みをともなうこともないし、入浴のさいきちんと洗っていれば、恥垢がたまって臭うとか、不潔になる心配もない。

 つまり、機能や衛生に関しては、まったく問題はない。したがって仮性包茎の手術には健康保険は適用されない。もちろん、手術しなかったからといって、人生が真っ暗になるなんてこともない。

 ただ、中には、包皮の余りが多すぎて、手術した方がべターだというケースもある(専用用語で「手術適応がある」という)。
 では、どういう基準でそれを判断するのか。私の場合は、次の基準で判断している。

 「勃起した状態で、包皮の余りが三センチ以上ある」場合。

 そういう人は、時期をみて診察を受けた方がよいと考えるが、それ以内の場合は、まったく手術の必要はない。したがって、私のクリニックに来院する患者のうち仮性包茎の手術を受けにくる人は約6割を占めるが、うち3~4割の人には私は手術を行なっていない。仮性包茎について正しく説明し、誤解を解いて、手術を思いとどまるよう説得しているからである。



 ところが、ちまたの雑誌を開くと、「手術を受けよう!」の広告の大合唱である。しかもその中には、明らかにウソとわかることが多すぎる。

たとえば「切らずに治します」というのかある。しかし現実には切らずに治しているクリニックはどこにもない。もし、君がそのクリニックに問い合わせてみても、その方法は″企業秘密″で、診てみないとわからないと答えられるのがオチだろう。そして診察の結果、医師から、切らずに治す方法は、君の場合むりだと言われれば、仕様がないと納得してしまうだろう。

 医学的に、切らずに亀頭を露出させる方法かあるとしたら、それはペニスの根元に余った包皮をたぐりよせることしかないが、それだとこんどは根元に包皮のたるみができ、それが邪魔になるので、結局はそのたるみを切る必要が生じることになる。

 このほか広告には、むつかしそうな名前の手術方法がいろいろ書かれているが、学会で発表されているものは一つもないのが現実である。要するに、広告用の ″方法″ であって、まともな医師が共通に認めるテクニックは一つとしてない。信じられないかもしれないが、これがこの″包茎手術業界″ の現実なのである。

 次号ではさらに、「傷跡が残らない」という広告のウソをはじめ、この″業界″の実態を伝えることにしよう。つまらないウソにだまされないために。