雑誌『ジュバンス』記事 その1

◆痛ましい包茎手術の被害者(1994/4月号)

方針イメージ

 

 3年前のある日、高校2年生の男の子が私のクリニックを訪ねてきた。
彼は包茎の手術を希望しており、診察したところ、カントン型包茎といって、手術が必要なものだった。

 しかし、高校生に対して、親の許可なく手術はできない。また急を要するものでもなかったので、手術の必要性、方法、包茎手術の雑誌広告の見方などを十分説明し、成人してから来院するよう説得して、その日は帰ってもらった。

 ところが3年後、その彼が再来院、手術したという傷跡を見せられて、ガク然とした。彼は成人するのを待たず、包茎手術を受けてしまった。

 手術をしたのは、あらゆる雑誌に広告が出ている有名クリニックで、「傷跡は残らない」と書いてあったというが、彼の大切なその部分は醜く痛ましい傷跡が残ってしまった。その傷跡を見て、彼ははじめて、私が3年前言ったことの意味がわかった、というのである。

 今、男性向けの週刊誌、君たちがよく手にする雑誌には必ずといっていいほど、泌尿器科や美容外科の広告が載っているはずだ。「嫌われる包茎、早く治さないとモテないぞ」「包茎、早漏解消3倍パワーアップ」「レーザーメスを使用しない、親身な包茎手術」・・・・・

 中には詳しく手術の内容を書いてあるものも多い。例えば、切らずに治す方法、傷跡が残らない、無痛・無血であるetc。その上、親切、ていねい、熟練男性スタッフ、プライバシー厳守。どの広告も耳ざわりがよく、何の心配もなく手術が受けられるような気になる。さらに「24時間テープ」を聞いてみると、いかにも安心できそうな声で、クリニックの紹介をしている。

 しかし、「ちょっと待て」と僕は言いたい。まずこれらの広告には明らかにウソがある。さらに問題なのは、これらの広告が手術など受ける必要のない人間に、不要な恐怖と不安をあおっていることである。

 もう知っている人もいるだろうが、男の子はオギャーとこの世に生まれてくるときは、全員が包茎なのである。それも完璧にくるまれた真性包茎だ。これは、一人前になるまで、デリケートで敏感な亀頭部分を保護するためで、哺乳類のオスならみんな同じなのである。
 これがいつ頃からむけてくるかというと、個人差もあるが、だいたい中~高校生の思春期の頃。男性ホルモンによって陰茎も亀頭も急速に発育し、先っぽの亀頭が徐々に顔を出し始める。

 この変わりつつあるオチンチンを好奇心のままいじったり、自分で皮をむいてみたり、あるいは覚えたばかりのマスターベーションに励んだりするうちに、やがて亀頭は完全にその姿を現わす。

 ところが、このプロセスが順調に進まないことがある。つまり亀頭が包皮に覆われたままの状態ということになるが、その程度や状態に応じて、「真性包茎」「カントン型包茎」「仮性包茎」と大きく三つに分けられる。

 そのうち「真性包茎」は明らかに機能障害なので(皮がむけないためSEXができない、つまり、種族保存をまっとうすることができない)、手術が必要(健康保険も適用される)。「カントン型包茎」は、無理をすればむくことはできるが、元に戻らないため危険な事態を招くこともあり、これも殆どは手術を受けたほうがよい。

 問題は「仮性包茎」である。これについては次号でまた詳しく述べるが、実は日本人の7~8割がこの仮性包茎なのである。その大半は機能的に問題がなく、手術の必要がない。にもかかわらず、「包茎は男の恥!」と騒ぎたて、不安をあおっているのが、前記の包茎広告なのである。